古くから霊場として守られてきた「沼袋の水」

神秘的に輝き、澄んだ水をたたえる十和田湖を有する青森県十和田市は、美しい緑と水に恵まれた町です。

「沼袋の水」は、十和田市中心部にほど近い森林の中にあります。

十和田市沼袋名水公園として整備された湧水群で、明応年間(1492〜1501年)から明治初期まで、神託の占場として崇拝信仰されていた地でもあります。

今でも正月などには、多くの参拝客でにぎわいます。

「おさんご」と呼ばれる、半紙に米とお賽銭を入れて折りたたんだもの(または半紙をこよりにしたもの)を沼に投げ入れて、それが流れたり、壊れたりせずに沈むと願いがかなう、とも言い伝えられています。

九州「山岳信仰」の中心的なご神水

福岡県と大分県の県境にある、英彦山(ひこさん)は九州の山岳信仰の中心として知られる名山のひとつで、北岳、中岳、南岳の3つの峰々がそびえる修験の霊場です。

中岳山頂に英彦山神宮上宮があり、奉幣殿からの登山道に下宮と中宮があります。

昔は「彦山」と書いていましたが、享保14年(1729年)、天下にぬきんでた霊山として霊元法王から「英」の美称を許され、「英彦山」と書かれるようになりました。

修験道の拠点として「嶺に3000人の仙人あり」といわれるほどの霊場となりましたが、明治の神仏分離に際して修験道廃止となり、英彦山神社と改称され、明治50年(1975年)に英彦山神宮となりました。

ご神水は、水源自体は神域となっていて入れませんが、社務所付近の水場の竜の口から流れ出ています。

霊験あらたかといわれ、最近では赤ちゃんの粉ミルクのお湯に使う主婦も多いということです。

弘法大師ゆかりの「加持水」

四国88ヶ所巡りの28番札所、法界山大日寺は、天平年間(729〜749年)に僧の行基が開基し、弘仁6年(815年)に弘法大師によって再興されたお寺です。

弘法大師は、楠の大木に爪で薬師如来を刻んだと伝えられていて、薬師如来像は首から上の病気に霊験があるとして信仰されています。

奥の院の左側、岩窟から湧き出る清水は、弘法大師の加持水(加持水とは、弘法大師の加持(祈祷)によって湧き出した霊験のある清水のこと )として知られ、万病治癒の清水として敬われてきました。

「土佐の名水40選」にも選ばれ、参拝の遍路の喉を潤すほか、地元の茶の湯にもたびたび利用されています。

「山の神のお告げ」で引いた水

「出羽富士」ともいわれる鳥海山は、標高2236mを誇る東北第二の名山で、古くから山麓周辺の人々の守り神として崇められてきました。

山麓には、信仰に培われた名水が数多く点在します。

女鹿地区に位置する「神泉の水」は、「山(鳥海山)の神のお告げで引いた水」といわれていて、6つに区切られた水槽は、最上流に水神が祀られ、上段から順に飲料水、米とぎ、野菜あらい、農機具の洗浄と使用目的によって分けられています。

地元の人たちは、このしきたりを昔から大切にして、水を守ってきました。

また、滝の浦地区の大島神社の境内には、「滝の水」があります。

この地区で地震が発生すると、村人はまずこの水を見に来るそうです。

濁ったままなら津波が押し寄せる合図だといいます。

「山の神」の恵みの水は、ここで暮らす人たちの「命の水」なのです

大雪山「美郷不動尊の清水」

北海道の富良野・美瑛地区は、今や北海道を代表する有名観光地となり、その美しい丘陵地帯に魅せられて、多くの観光客が訪れています。

人気のローカル線、富良野線の美瑛駅から十勝岳連峰へ向かう白樺街道を進むと、ほどなく道路沿いに「美郷不動尊」の看板があります。

小さなお堂の下には、大雪山系の湧き水といわれる、美しい清水が湧き出ていて、口当たりの良い水として人気の「名水」となっています。

昭和23年頃、不明になっていた不動尊がこの地で見つかり、土地の人たちによって、改めて不動尊を建立したところ、お堂の下からコンコンと清水が湧き出したといいます。

最近ええは、体に良いありがたい水ということで、水汲みの人たちが頻繁に訪れるため、水汲み場が新設されて便宜が図られるようになりました。

カルシウム豊富な「神の水」

凛々しい毘沙門天の碑がたつ湧水「毘沙門水」は、埼玉県秩父郡小鹿野町の北東に位置する、標高約997mの白石山(毘沙門山)の麓に湧きます。

石灰質の毘沙門山から湧く水はカルシウムが豊富で、地元では昔から飲料水として珍重されてきました。

水源地から1800メートルのパイプで引いた給水施設は、給水口が5ヶ所あります。

県内外でも人気が高いことから、平成19年からはペットボトル化して、町の特産品として販売もされています。

渇水期でも枯れたことがないという毘沙門水は、「神の水」とも呼ばれ、諏訪神社では毎年1月に行われる、天候や作柄を占う神事でも使われています。

この水は、地域の生活に深く関わった水といえるでしょう。

秩父「武甲山伏流水」

武甲山伏流水は、埼玉県秩父市の市街中心地を潤す地下水です。

日本三大曳山祭りの一つである「秩父夜祭」の起源ともなった水で、地域の伝統や文化に重要な役割を果たしています。

湧き出しているのは、今宮神社や秩父神社の泉。

秩父の民話として知られる「妙見七つ井戸」もこの地下水に由来します。

現在では、秩父市宮地地区の生活用水に利用されるほか、秩父神社のお田植え祭りでは、豊作を願ってこの伏流水を供えるそうです。

伏流水は、「道の駅ちちぶ」の無料飲水施設で味わうことができます。

また、秩父神社ではおみくじを浸すとご神託が浮かび上がる「水おみくじ」も楽しめます。

胃腸病に「つゆ太郎さんの水」

広島市廿日市の山間の名水は「つゆ太郎さんの水」。

野見原山から湧出する水で、昔から霊泉として崇められてきました。

鉱泉成分が含まれているため、胃腸病に効能があると伝えられ、昔は鉱泉を沸かして湯治に使っていたそうです。

評判を聞いて、最近では広島市内あたりからも多くの人が訪れるそうです。

ちなみに「つゆ太郎さん」とは、梅雨時に姿を見せる夫婦の蛇のことで、近くの「異石」と呼ばれる大岩を住まいにしていたそうです。

近くには二つの祠が、安産、商売繁盛の神として祀られています。

山肌から湧出する水は、一対の蛇頭をかたどった石の井筒から流れ出ていて、いかにも霊験あらたかな雰囲気をだしています。

菅原道真を祀る「京の名水」

京都・寺町京極と新京極にかかる一角に「錦天満宮」はあります。

天満宮の名の通り、菅原道真を祀るお社です。

平安時代からの由緒ある神社ですが、豊臣秀吉の時代にこの地に移転しました。

菅原道真は平安時代の学者であるところから、学問、知恵、商才の神様とされ、地元では「錦の天神さん」として親しまれています。

境内にある「ご神水」は、地下30mから汲み上げられていて、水温17〜18度、水質検査でも無菌の良質な水を折り紙つき。

朝夕にはペットボトルを手に、近所のお年寄りたちがたくさん訪れます。

また、受験生には特に人気で、いつもはにぎやかな修学旅行生も、神妙な面持ちで水を飲んでいます。

日本武尊ゆかりの霊水

東海道本線と北陸本線の分岐駅でもある滋賀県米原市は、中世以降、宿場町として栄えました。

旧中仙道に沿って琵琶湖に注ぐ地蔵川をたどって遡ると、おびただしい水量の湧き水になっています。

「居醒の清水」は、「その昔、伊吹山に住むという大蛇退治にやってきた日本武尊は、蛇の毒気にあてられたが、この清水で癒して元気になった」という神話が残る霊水です。

もちろん、水を飲んだり汲んだりできて、石灰層から湧き出る水はミネラル分を豊富に含み、おいしい水としても折り紙つきです。

湧水のほとりには、江戸時代の儒学者で近江出身の雨森芳州が詠んだ「水清き 人の心を さめが井や 底のさざれも玉とみるまで」の歌碑があり、彩りを添えています。